換気に配慮したこれからの時代の住まいづくり
風を設計する
山本英司、安藤英之(株式会社LIXIL)
密室回避の観点から多くの人が意識するようになった「換気」。LIXILが行なったアンケートでは、生活者の約28%が「コロナ禍以前に比べて換気への意識が高まった」と回答しています。“ニューノーマル”といわれるこれからの時代の住宅づくりにおいて、換気に配慮した家づくりはもはや基本要件といえます。そもそも自然の風を住まいに採り入れることは、健康・快適・省エネな暮らしの実現のために不可欠なこと。お施主さまの心を満たす住宅づくりのためにも、改めて「風を設計する」際のポイントを確認していきましょう。
住宅における換気・通風の重要性
厚生労働省の調査によると、窓を閉め切った室内の空気は屋外よりも最大7倍も汚染されていることがあるそうです※。空気は目に見えないので、なかなか実感が持てませんが、室内の空気中に浮遊している汚染物質は、ウイルスや細菌だけでなく、二酸化炭素、一酸化炭素、揮発性有機化合物、ホルムアルデヒド、アレルゲン(ダニ、カビ、花粉等)も含まれます。換気によって室内の空気と外の空気を入れ替えることで、これらの汚染物質を外に排出したり、薄めることが期待できます。また、換気・通風には、有害物質の排出以外にも、温度・湿度の調整やニオイ・ホコリの排出などさまざまなメリットがあります。
「機械換気」と「自然換気」の2つの方式
換気の方式には、ファン(送風機)などを利用した「機械換気」と、窓などの開口部から外気を採り入れる「自然換気」があります。
「機械換気」とは
機械式のファンなどで強制的に換気を行う方法です。機械換気設備が設置されている住まいでは、部屋の壁や天井にある給気口から外の空気を採り入れ、トイレや浴室、キッチンなどにある排気口から汚れた空気を排出するよう設計されており、一般的な目安として1時間で半分以上の空気が入れ替わるようになっています。主にシックハウス症候群の対策として、2003年7月以降に建てられた戸建住宅やマンションの場合、機械換気設備(24時間換気設備)の設置が建築基準法によって義務づけられています。
「自然換気」とは
窓を開けて自然の風を採り入れる換気方法です。一般的に自然換気は機械換気よりも大きな換気量が期待できます。ひと昔前の日本家屋はわざわざ窓を開けなくても、ある程度換気ができる造りになっていましたが、現代の住宅は気密性が高く、室内に空気がこもりやすい造りになっているため、設計時に住宅全体での換気・通風計画を考えることが大切です。
ここからは、自然換気で合理的に住まいに風を通すための「風の設計」のポイントを4つのステップでご紹介しますので、これから家を設計する際にぜひ参考にしてください。
STEP01 建設地の風を知る
“風の設計”を行う前に、住宅を建設する場所でどんな風が吹くのかを知ることが大切です。地域や季節はもちろん、周辺の地形や近隣の建物の状況を把握しましょう。
地域の「卓越風」を調べる
卓越風とは、あるエリアで、ある期間に最も頻繁に現れる風向きの風のこと。これから住宅を建設する地域にも卓越風があります。地域それぞれの「卓越風向」については、(一財)建築環境・省エネルギー機構が公表している気象データで確認することができます。
■(一財)建築環境・省エネルギー機構 自立循環型住宅ホームページ
http://www.jjj-design.org/program/windrose/
周辺環境から風の流れを確認する
卓越風向を参考にしながら、次は敷地周辺の風の特性を把握することが大切です。卓越風は常に同じ方向から吹いているだけではなく、また、周囲の建物の状況によっても異なるため、実際に敷地に立って風の向きや強さを確認するようにしましょう。
■建物間に流れる風(南風、地上5m断面)
建物間を流れる風は狭い側では流れにくく(寒色系)、
すぐ横に隣家がない側の建物の脇は風が通り抜けている(暖色系)。
STEP02 風の入口と出口をつくる
風が通り抜ける原理
自然換気を行うためには、風や空気の特性を上手に利用することが大切です。自然換気には、風上側と風下側の圧力差によって空気の流れをつくる「風力換気」と、住宅内の温度差によって空気の流れをつくる「重力換気(温度差換気)」があり、この2つの手法が基本となります。
風の入口と出口をつくる
風の入口にしか開口部がない場合、建物内の空気が外に出ていくことができず、多くの風を採り込むことができません。風の入口として風上側を、風の出口として風下側に開口部を設けて風を通します。また、通風量(換気量)は、小さい方の開口部の大きさで決まるため、特に風の出入口となる開口部の面積に留意する必要があります。
■換気シミュレーション動画
窓2カ所を開けた場合
窓と玄関の2カ所を開けた場合
・使用ソフト:Flowdesigner/株式会社アドバンスドナレッジ研究所
・住宅モデル:自立循環型住宅 パッシブ標準プラン
・住宅断熱仕様:平成28年省エネルギー基準 Ⅵ地域適合レベル
・気象条件:標準年拡張アメダス気象データ2010年版 東京
STEP03 風の通り道を確保する
風の入口と出口の間にできるだけ障害物がない方が風は建物内を通り抜けることができます。しかし、プライバシーの確保などを考えると、室内の間仕切りを配置したり、ドアを閉めなくてはいけないケースもあります。その場合は、室内窓やランマ付きのドア、ルーバー付きの建具などを活用することで、プライバシーを確保しながら通風することができます。
STEP04 風をつかまえる
部屋の1面にしか窓が設けられない場合は、家の脇を通り抜ける風をつかまえるのに有効な「ウインドキャッチの窓」がおすすめです。窓の開閉方向に工夫を加えることで、効率のよい採風が実現。ウインドキャッチの窓なら、引違い窓の10倍以上の通風量を得ることが可能です。
■引違い窓と縦すべり出し窓の通風量比較
【試算条件】
・流体解析ソフトウェア:STREAM V8(ソフトウェア CRADLE)
・壁に沿って1m/sの風が流れていると仮定
・一面のみに開口を確保する場合
・6畳の部屋を想定
・初期室温:30.0℃、初期湿度:60%、在室者:1名、外気温26.0℃、外気湿度:70%
LIXILおすすめ 換気・通風対応商品
サッシ・ドア
フィルター付換気窓+段窓排気ファン
窓を閉めたまま換気が可能。壁に穴を開ける必要がないので施工も簡単です。(商品ページはこちら)
ウインドキャッチ(縦すべり出し窓)
左右の窓をそれぞれ90°に開くことで、家の脇を通り抜ける風をしっかり採り込むことができます。(商品ページはこちら)
地窓・高窓(横すべり出し窓)
温度差換気を行う際、風の入口に「地窓」、出口に「高窓」を活用すれば、外からの視線を気にせずに効果的に換気・通風が行えます。(商品ページはこちら)
採風ドア(玄関ドア・玄関引戸・勝手口ドア)
採風機構の付いたドアや引戸の場合、カギを閉めたまま換気することができます。(商品ページはこちら)
採風シャッター/目隠し可動ルーバー
スラットや羽根部が可動式なので、外からの視線を遮りながら通風できます。(商品ページ(採風シャッター)はこちら)
(商品ページ(目隠し可動ルーバー)はこちら)インテリア建材
通風建具(ドア・引戸・可動間仕切り)
ルーバー付きのデザインの場合、ルーバーを開放すると、扉を閉めたままでも室内に風の通り道をつくることができます。(商品ページはこちら)
ランマ付ドア/ランマ用窓
ランマを開くことで、廊下からの風を採り込み、プライバシーを守りながら換気することができます。(商品ページはこちら)
デコマド
住まいの間仕切り壁に窓を設けることで、各部屋の中に風や光を通すことができます。(商品ページはこちら)
住まいの換気対策がこれまで以上に重視される時代。設計時に住宅全体で換気・通風計画をきちんと考えることは、住宅のプロである建築士に求められる責務といえるかもしれません。今後は、「風の設計」を取り入れたパッシブな住まいを提案・提供することが、お施主さまのさらなる満足度向上にもつながっていくはずです。
2021年4月以降に設計を委託された住宅について、物件ごとに省エネ計算を実施し、省エネ基準への適否や対応策をお施主さまに説明することが、建築士の義務になります。新登場の「LIXIL省エネ住宅シミュレーション」は、お施主さまへの説明義務を果たすための説明資料や提案資料、認定・優遇制度の申請時に必要な計算書も、WEB上でのカンタン操作でパッと自動作成できます。
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LIXIL省エネ住宅シミュレーション
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公開日:2020年11月16日