高崎市児童相談所×LIXIL

建築を外構の設計からはじめる

小鮒朋也、細谷奈央(石井設計グループ)

石井設計の事務所でインタビューに応じる小鮒氏と細谷氏

群馬県を中心に100年以上にわたり建築に取り組んできた石井設計。クライアントのニーズに応えるべく常に最新技術を取り入れ、BIMについても10年以上前から導入し活用してきています。
2025年に開所が予定されている高崎市児童相談所のプロポーザルでは、建物ではなく、最初に外構のイメージを共有し、まちの景観としての施設のあり方を提案したことで、見事、採用されました。外構の設計ではLIXILのBIMデータが使われています。
今回は、高崎市児童相談所の建築設計を担当された石井設計グループの小鮒 朋也氏と細谷 奈央氏にBIMによる外構設計のお話を中心に伺いました。

10年以上前から、いち早くBIMを導入

石井設計グループ
第1建築設計部 グループリーダー
小鮒 朋也氏

小鮒氏:

石井設計は、1920年に創業し2020年に100周年を迎えました。創業当初は旅館やホテルを中心に設計していました。現在は仕事の8割が民間、2割が公共で、生産系の工場から病院、学校、事務所ビルなどジャンル問わず設計監理を行っています。
2010年にはいち早く BIM ソフトを試験的に導入しており、2014年、国土交通省官庁営繕部において BIM ガイドラインが策定されたのを機に、設計スタッフ全てに導入し最新の設計手法に着手しています。最初の頃は、3Dモデルという位置づけで、発注者様から要望を聞き出して具現化するなかで、立体的なイメージを共有していくといった使い方をしていました。最近では、スタッフほぼ全員がBIMを使うようになってきており、大きな案件の場合、設備や設計など複数で同時に図面を作図するといったイメージで活用しています。さらに、建築設計だけでも3、4人でフロア分けをし、外壁や内部といったゾーニング分けをしながら作業に取り組むこともあります。
BIMは情報をしっかり入れることで、実際の建物と遜色ないレベルで表現できます。当社では、基本設計まで全てBIMを使っており、建築を可視化できるので、発注者様側とイメージを共有するだけでなく、その後の運営管理にも役立っています。現場では、工事中に仕上げの色など、「やはりここはこの色にしてみて」といったやりとりが頻繁にありますので、建設現場に入ってもBIMを使いながらイメージの共有をどんどん進めていけます。設計段階ではあくまでも、設計者の頭の中にあるイメージを発注者様に伝えるためのツールなのですが、現場では施工者も含めて皆さんと共有していくツールとしても活用できています。

外構から設計した高崎市児童相談所

小鮒氏:

当社がプロポーザルで選定された高崎市児童相談所は、子育ての悩みについての相談や児童虐待に迅速に対応するため、2025年度に開所される高崎市独自の児童相談所です。一時保護にも対応した児童相談所で、子どもが一人で駆け込め、相談者が気軽に立ち寄れる場所をつくりたいと、駅から徒歩5分もかからない場所を市が選んだと伺っています。
建物と外構設計をトータルで手掛けていますが、子どものための施設であり、いわゆる一般的な家庭像ではない壮絶な環境で育ったということも考慮し、高崎市産材の木を使うことにより、極力、“普通”の家に近い、温かみのある雰囲気にしました。建物は強度面からRC造で計画していますが、なるべく明るい印象にしています。また、コーナーをアールとし丸みを持たせ、柔らかな印象になるようにしています。
大きな特徴は、北側に公園のような緑地のポケットパークを設けたことです。一般的には児童相談所という近寄りがたい施設を、近隣の住民の方々も含めて立ち寄りやすいスペースになるようにイメージしながら設計しました。親族が連れ去るケースもあるので、子どもを保護する観点で1階については完全に閉鎖的ですが、利用者が2階の相談所に入りやすくするため、外部から階段で直接上がれるようにしています。
実は、高崎市児童相談所についてはポケットパークから設計して、その奥に施設を建てるということを、プロポーザルで提案して、当社が採用されたという経緯があります。まずは、まちからどのように見えるかという点に着目し、大々的に緑化した公園のようなポケットパークを打ち出したことが、結果的に良かったのだと思います。
同じ群馬県の前橋市でもアーバンデザイン計画を策定し、シャッター街を以前のように活気ある場所に戻そうと取り組んでいます。地方よりも東京都心のほうが、まちの緑化が進んでいます。前橋でもそういったまちづくりをしていこうと、まずは緑を整備する“グリーン&リラックス”といった施策に取り組むなど、景観としての外構はかなり大きなファクターを占めるようになってきています。
それは当社にも言えることで、5年くらい前までは、建物をつくって、それから外構ということが多かったのですが、最近は外構の設計から入り、その後建物計画を行うスタンスが増えてきていると感じています。

高崎市児童相談所 正面外観。誰もが気軽に立ち寄れるよう建物の前にポケットパークを設けた

高崎市児童相談所 内観。木を基調にした温かみのある室内をイメージ

クライアントとイメージを共有できるBIM

画面はLIXILのフェンスのBIMデータを使ったパース図

小鮒氏:

高崎市児童相談所はフルではありませんがBIMを使って設計しています。外構のパースでは、BIMからツインモーションにリンクし、人や車が動くように配置しました。ほかにも雪が積もったシーンや植栽がどう変わるかなど、四季の移り変わりの景色も確認することができ、発注者様とイメージを共有するうえでよりリアルに捉えていただけます。「ここに壁を足したらどうなるのか?」といった疑問にもその場でデモンストレーションすることができ、設計者が一方的につくるのではなく、発注者様にも参画していただきながら計画するように心がけました。

今回、伸縮門扉や大型引戸、フェンス、駐輪場などについては、LIXILさんのBIMデータを使わせていただきましたが、児童相談所ですから外構を設計するうえでフェンスの高さが非常に重要でした。周囲からの視線を避けるために1.8mにするか2mにするかなど、高さを検討する際に、「目線の高さにすれば外からは見えませんね」といったやり取りをするなかで、LIXILさんのBIMデータモデルできちんと詳細なテクスチャーの雰囲気を出せたことは、非常に説得力がありました。これをオリジナルでつくろうとするとのっぺりした壁でしかなくなる。そういった面でも製品がBIM化されているものは、情報としてとても使いやすいですね。
外構の図面については詳細図まではBIMで描けていません。パースとして、高さの確認や外壁と合わせたフェンス、門扉を用いた外構の雰囲気をお見せするために使っているというのが現状です。今後、外構も実施図として描いた場合に、LIXILさんのBIMデータを使えれば、かなり作業時間の短縮になると考えています。発注者様とイメージの共有をするためにも、外構商品のBIMデータは、非常に効果的だと感じています。

石井設計グループ
第1建築設計部
細谷 奈央氏

細谷氏:

高崎市児童相談所では、BIMの平面図などの作成を担当しました。入社3年目ですが、大学の授業でBIMをずっと使っていたので、就職してからBIMを使って設計することに対して抵抗はありませんでした。詳細図は複雑になりますが、形をつくっていくのはBIMであればすぐにできます。2Dと3Dを併用して使っているので、当たりをつけてから平面図に合わせて3Dをかくという手順を踏んでいます。まだ、知識が足りないので、いきなりBIMで図面を起こすのは難しいです。一からとなると今は先輩方に聞いてつくることになりますが、自分で理解してできるようになれば、BIMだけでつくるのは可能だと思います。
今回、LIXILさんの外構のBIMデータを使わせていただいて、形状だけでなくて色なども自由自在に変えられるので、発注者様にお見せする時に、クリックひとつで色や高さも変えられて、簡単に比較できるのが良かったですね。

春、人々がポケットパークに集う様子。四季や人の動きをBIMで表現することで、クライアントとイメージを共有できる

外構のパース図に使われたLIXILのBIMデータ。図面に製品データを取り入れることで詳細を伝えられる

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公開日:2024年01月29日