事業再構築補助金の対策ポイント(基本編)~採択するために最低限おさえなければいけないこと~

中小企業診断士 市岡直司(株式会社市岡経営支援事務所)

事業再構築補助金とは

事業再構築補助金とは、新型コロナウイルス感染症の影響が長期化によって業績が悪化した中小企業等に対して、事業展開・新事業展開を促し事業再構築を支援する補助金です。
2021年5月から実施されており、本年度中に5回募集されるとなっています。予算規模は1兆円を超えており、補助額は最大8,000万円から1億円という今までにない大規模な補助金で、本年度一番注目されている補助金と言っていいでしょう。

2021年9月7日現在、第2回公募分の採択結果までが発表されており、全体採択率は第1回公募が36%、第2回公募が44%となっています。
3~4割台の採択率となっており、半数以上の企業が採択に至らない比較的難しい補助金と言えます。

弊社は認定経営革新等支援機関として第2回公募分までで50社を越える中小企業の採択に係り、事業計画書の作成支援に携わってきました。その経験の中で感じている申請時における基本的な注意点や、事業計画書の作成におけるポイントを2回にわたってご紹介します。

今回は基礎編で、まずは最低限おさえなければならない基本的な注意事項について解説します。

最低限抑えてほしいこと(基本)

本補助金の採択結果はすでに1次及び2次公募分については正式に発表されています。この結果から言える特徴として、応募者の中で一定の割合で要件不備により不採択となってしまう申請書があるということです。
これだけ要件不備の件数がある補助金も珍しいのではないのでしょうか。

ちなみに2次公募分を例にとると、応募総数は20,800件。このうち申請要件を満たしたものは18,333件と発表されていますので、要件不備として扱われた件数は2,467件となります。これは主に、「必要な書類がない」、「要件に該当しない」など、そもそも要件に該当していないと判断されていること、最低限必要な書類が揃っていないことが原因と考えられます。このような要件不備については気を付けて申請すればおおむね防げるものです。

今回は、特に要件不備にならないために注意してほしい基本事項を3つご紹介します。

① 最新の募集要項、条件を必ず確認する

最近の補助金全般の傾向なのですが、募集要件が複雑であり、また募集回を重ねるごとに変更が多く発生します。
これを見落としてしまうと「条件に合わない」という事態になります。事業再構築補助金も回を追うごとに変更がとても多くなっています。今回、事業再構築補助金においても3次公募分から以下の3つの大きな変更がありました。

  • 通常枠の補助金上限額の変更
  • 売上高10%減少要件の対象期間の拡大、付加価値額の減少でも可
  • 最低賃金枠、大規模賃金引上枠の新設

このように大きな変更も多く、正確な情報を確認しておくことが常に求められます。
このため、常に公式HPをチェックすることが重要です。

事業再構築補助金ホームページ

事業再構築補助金ホームページ

② 売上が減少していることの証明は正確に

事業再構築補助金は、新型コロナウイルス感染症によって業績に影響を受けた企業が対象となっています。そのため申請にあたっては、一定の売上減少要件が設けられています。
①でも述べたようにこの条件も変わる可能性があるため、チェックが必要です。

売上減少の条件に該当していても、その売上減少の証明にかかわる書類の不備があり、要件不備となってしまう事例を多く見かけます。事業計画書に記載する売上と証明にかかわる資料にある数値が違っているとNGとなりますので、注意が必要です。

また、売上減少の証明にかかわる書類は申請時に添付する必要があり、不足していないか、指定されている書類かどうかはなるべく経営革新等支援機関(金融機関や税理士など)に確認してもらってください。
事業再構築補助金は、経営革新等認定支援機関の助言を受けながら進める必要がありますから、しっかり専門家にチェックしてもらいましょう。

③ 事業再構築指針に明確に沿っていること

事業再構築指針

事業再構築補助金に応募するためには、「事業再構築指針」に沿った取り組みである必要があります。
応募申請する枠(通常枠、卒業枠、グローバルV字回復枠、緊急事態宣言特別枠など)と事業 再構築の種類(「事業再編型」、「業態転換型」、「新分野展開型」、「事業転換型」、 「業種転換型」)に応じて、「事業再構築指針」に沿った事業計画を作成します。

重要な点は、この再構築の類型に応じた必要となる要件に明確に合致していることを審査員にわかってもらう必要があるということです。

例えば、「新分野展開」を例にとると、以下の3つの要件を満たす必要があり、各要件の詳細内容についても合致しているか事業計画書の中で明示してください。特に要注意な要件は「製品等の新規性要件」です。

「製品等の新規性要件」は3つの項目からなり、

  • 1) 過去(コロナ前)に製造等した実績がない、新たな製品であること
  • 2) 製造等に用いる主要な設備を変更すること
  • 3) 定量的に性能又は効能が異なること(製品等の性能や効能が定量的に計測できる場合に限る。)

から成り立っていますが、事業計画書の中で特に1)と2)が明確に要件に該当するということを訴える必要があります。どこまでが「新たな製品」に該当するのかという基準は、この内容を審査する審査員の判断にゆだねられます。
新たな製品に当たらないと判断されれば、それだけで不採択となる可能性があります。

審査員は各分野の専門家が担当しているとは限らないため、その分野に詳しくない審査員にとっては「これは新商品なのか、類似品なのか」の判断に迷う場合があります。そういった場合を想定して、素人が内容を確認しても明らかに新商品と判断できるように、丁寧に説明することが求められます。

また「製造等に用いる主要な設備を変更する」についても、投資するものが主要な設備であるかどうかを示す必要があります。特に建物だけの投資の場合、事業内容によっては主要な設備を変更していないと判断される可能性がありますので注意が必要です。この部分についてもわかりやすく事業計画書の中で「主要な設備を変更している」ことを訴える必要があります。

事業再構築の類型と要件について

今回は特に基礎編ということで、特に要件不備にならないために注意しなければならない3つのポイントでした。次回は実践編ということで、不採択理由にもとづく事業計画書の書き方のポイントについて解説していきたいと思います。

コラム執筆者紹介

市岡 直司
株式会社市岡経営支援事務所 代表取締役 中小企業診断士

補助金活用支援においては、公的機関や認定経営革新等支援機関としての実務支援を通じてこれまで延べ500社以上の補助金獲得実績を誇る。

株式会社市岡経営支援事務所:http://ichioka-shien.com/

このコラムの関連キーワード

公開日:2021年09月22日